2021.4.14公開
はゆっちFarm
山内一馬さん
山内朋子さん
長崎県東彼杵町。かつては長崎街道の宿場町として、また平戸街道の起点として、たくさんの商人や武士、時には外国からの来訪者たちで賑わった町。現在は全国茶品評会で日本一になった「そのぎ茶」を特産品とするお茶の町であり、高台から見渡す緑色の風景が活き活きとしています。
周りを田に囲まれた3棟のハウス。出迎えて下さったのは、アスパラを始めとした多品目農業を営む『はゆっちfarm』さん。快活な印象の妻・朋子さんと柔らかい笑顔の夫・一馬さんのご夫婦です。
はゆっちfarmさんのアスパラガス栽培の特徴は、"菌"の力を活かした栽培であること。これまで何度か生産者さんにお話しを伺ってきましたが、このような栽培方法はあまり聞き馴染みがありません。
「乳酸菌、EM菌、バチルス菌などのさまざまな"菌"を使っています。菌の力で農作物自体を病気にかかりにくい体質にすることで、農薬の使用を最小限に減らせるよう努力しています。」
写真に写る土を覆う白くふわふわしたもの。これは放線菌という堆肥に多く含まれている菌で、微生物の生成する酵素が、害虫対策に役立つとのこと。
「例えばアスパラが病気になった際も、本来なら蔓延を防ぐために農薬を使用します。しかしそうすることで有益な菌まで消えてしまうため、廃棄の量が多くなっても有益な土壌菌を守る選択をしています。」
沢山の微生物が住む良質な土壌からは、キノコが顔を出します。
「美味しく食べて頂くには、鮮度も重要なポイントです。市場に出すと卸先に届いてから発送されるまで約2日はかかるので、都内のスーパーに届く頃には1週間が経過してしまう。それが産直では鮮度重視で朝収穫したものを当日中に発送しているので、地域によっては採れた翌日にお届けできるんです。この5日~6日の差が鮮度と美味しさに大きく影響しています。」
これが生で食べても甘く、火を通すと旨味の増すアスパラの秘訣。
「新鮮なアスパラガスは水分が閉じ込められていて、生で食べてもプリップリ!それを皆さまにお伝えしたいです。」
「これはアスパラガスを収穫するハサミです。」
根から伸びているアスパラガスを一定の長さのところで切断する。中央の棒は物差しになっていて、刃で挟むと同時に切る位置が分かる。これを使えば、作業効率アップ!の優れもの。
「アスパラの長さは市場の基準だと20センチ。土に生えた状態で長さを図って切ったら、それをさらに根本を切りそろえて綺麗にします。プラマイ1cm以内だったらあとは機械で。自分たちで出荷するときはまな板に合う木枠を作って、麺切り包丁で切り揃えます。このやり方だと何10本か束でまとめて切れるんですよ。」
生で見る生産の現場。生産者さんによって十人十色の作業効率化の工夫に、感銘を受けます。
農業を始めて4年目のはゆっちfarmさん。
夫・一馬さんは農家になる以前、産業機械のエンジニアをされていました。
「ゆくゆくは田舎暮らしをしたかった。子どもたちに採れたての新鮮野菜の美味しさを経験させたいという願いのもと、脱サラして農家を始めました。
私たちの農園名も、3人いる息子・娘のそれぞれの名前の頭文字をくっつけたものなんです。はゆっちfarmの『はゆっち』の由来は子どもたちにあります。」
「朝早く起きて、夜はとりあえず子どもたちを寝かせてから梱包作業をしたり。」
農作業は朝早くから夜遅くまで続きます。台風の影響もあり、一時は1度の収穫に5時間~6時間の時間を要していたそう。
「でも、農業をやりたくてやっているので、そんな苦じゃないですよ。作業場にテレビもつけて快適に仕事できるように、なるべく改造しています。」
2020年の夏、立て続けに発生した台風9号・10号。
強い台風が直撃したハウスのビニールは剥がされ、アスパラの親木は倒れてしまいました。
「倒された親木はどんどん枯れていってしまいます。1年かけて台風に耐えられるように補強してきただけに、がっかりです。農家になったばかりの年にも台風で同じ被害を受けて、今年は2年間引きずってたダメージがやっと回復した年だったのですが…。ここから回復するにはまた2年はかかりそうで。時間が経てば回復するっていうのは1度経験して分かっているんですけど、やっぱりショックです。」
しかし、2年前とは違う前向きな気持ちもあったそう。
「台風の影響で穂先がウネウネくるくる曲がってしまった上に、日照不足で緑色にならなかったアスパラガスを『暴れん坊アスパラガス』として販売させていただいたんです。そうしたら沢山の方が注文して下さって。
やり取りをしてずいぶんお時間が経っているお客様でもトークからガンバレ!ってメッセージを送ってくださいました。『急がなくて良いです』『頑張ってください』っていう文字を見ると、ぐずぐずしてられない!やるしかない!っていう気持ちになりましたね。待っていて下さるお客さんがいるというのは大きくて。2年前とは断然気持ちが違いました。本当にありがたいです。」
当時、私たちからもご連絡をさせて頂いた際には「自分のところよりも被害が甚大な方を優先してお手伝いして下さい。」とお伝えくださった山内さん。山内さんの持たれる思いやりの心が、お客様からの応援の声となって返ってきたのではないでしょうか。
「何度も経験する自然災害ですが、その中でも生き残る手段を考え、一生農業で暮らしていきたいと思っています。産直の良さを皆さまに知っていただき、野菜の美味しさを広めていきたいです。今多くかかってしまっている労力を減らして、良いものを良い価格でお届けすることを目標に!」
覚悟を持って真っ直ぐに農業に向き合うお2人。穏やかでありながら心の中でメラメラと燃える思いを感じ、私たちも遜色なく取り組まなければと身の引き締まる訪問となりました。
最後に掲載用の写真を、とカメラを構えると咄嗟に出たのがこのしょんぼりポーズ。
おちゃめな一面もある明るいお2人です。
そんなはゆっちfarmさん、現在は生でカブリと食べられる、夏芽アスパラガスを販売中です。※4/14(水)現在
「台風の影響で心配していた春芽ですが、半減を覚悟していたので予想通りといったところです。早めに夏栽培に切り替えるよう進めています。お客様からのご注文を毎日ワクワクしながら待っています。」
その美味しさに驚いて腰を抜かしてお怪我なさいませんよう。
台風に打ち勝った勇姿、縁起の良いアスパラガスはいかがでしょうか?
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はゆっちふぁーむ
出品者さんのページ
Instagram @hayucchi_farm
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