本記事は、愛媛県今治市の「EBISU☆FISHERY」の漁師、越智吉文さん夫妻を紹介しています。漁師の独学での挑戦や市場を介さず直接鮮魚を届けたいという思いが語られています。
2021.02.15公開
EBISU☆FISHERY
越智吉文さん
越智智美さん
瀬戸内海に面する愛媛県今治市。お邪魔したのは、秋も深まる11月の昼下がり。漁船がずらりと並ぶ港の清々しく穏やかな空気が出迎えてくれます。
これぞ海の町!と感じる光景に、海無し県で育った筆者はなんだかわくわく。
ご挨拶が済むと早速船へとご案内下さいました。
写真左手に写る、陸と船を繋ぐ木の板。船に乗り込むためにはこの木の板を渡らなければいけないのですが、これが意外と細い。そしてしなって揺れるので、海に落ちるのではないかとハラハラ。
吉文さんが試しに、とエンジンをかけて下さいましたがこれがまた話し声が聞こえなくるほどの大きな音!そこには私たちの知らない世界が広がっていました。
フード付きのパーカーにパンツを合わせたカジュアルな服装。漁師さんと聞いて思い浮かべていたスタイルとは、大きなギャップが。
吉文さん 「別にどんな格好でも。つなぎの人もいるし、僕はちょっとあんまり好きじゃないんで。もちろん濡れますよ。でもここらの人は濡れても気にしない。カッパの方が嫌や、みたいな感じで。ほとんどエンジンがやってくれますし、そんなにはビショビショにはならないですね。」
この船で行う漁は、海底に袋状のワイヤー網をおろして曳き海底付近にいる魚を捕る、いわゆる「底引き漁」といわれるもの。18メートルの木の棒に網の両端をつなぎ、船を動かして引っ張っているそう。
吉文さん 「引き上げる時は機械が巻いてくれるんで、漁に出る時は僕1人。ここの街の人は8割方1人でやっています。1回出たら12時間は海にいるかな。
皆さんテレビで見て、すごい袋の中に蟹とか鰯とかが大量に獲れてるっていうイメージを持たれていると思いますが、1回に獲れる漁は想像より少ないです。」
こうしてその日獲れたものの中から、お客様にお届けする魚を選別していきます。
多くを語らない吉文さんですが、妻・智美さんが吉文さんが漁師の道へ進んだ背景を教えて下さいました。
智美さん 「旦那さんのお父さんが漁師さんでした。
そのまま継いだわけではなく、1度溶接などの仕事をしていたようですが肌に合わず漁師になったようです。
お父さんは若いうちに亡くなっているので船を受け継いだわけでもなく、漁師の仕事は独自に勉強し周りに助けてもらいながら今の形になったようです。普段愚痴や弱音を吐きませんが、教えてくれたり相談ができる親がいなくてとても苦労したと思います。
石橋を何百回も叩いて渡るタイプなので、私みたいな後先考えず行動する嫁を貰って更に苦労しています!…可哀想に!」
智美さんは明るく笑います。
そんなEBISU☆FISHERYさんが、初めてOWLに出品したのが昨年の6月。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
智美さん 「私は漁師町じゃなくて他のところから嫁いできて、漁師が市場に売ってる値段とお客さんがお店で買われてる値段があってなくて。あの魚って元々はこんな安いの?みたいな気づきがありました。
いつも、沖に出ているときに電話すると怒鳴られるんですが、それは死と隣り合わせだから。網に巻き込まれたり海に落ちたりと少しの油断が大事故を招くお仕事で、旦那さんのお母さんは旦那さんが沖に出る日は何事もなく無事に帰ってくるように、といつも祈ってます。
そうやって命がけで取ったお魚を安く買われたり鮮度が落ちている状態で高く売られてたり…間が儲けているだけで漁師は働き損じゃないかと思いました。
だったら直接売った方が鮮度が良いものをお届けできるし、お客さんにも安く手に入れてもらえるから良いよって私から旦那さんに言って。
旦那さんは嫌がりましたが、そんな時にこの世の中の状況になって。通販が主流になってきているのを感じたんです。流れが見えたのもあり、やっていたフリマアプリで鮮魚を出品してみました。」
吉文さん 「最初はもう嫁はんが勝手に。話も聞いてない。」
智美さん 「そう(笑)それで多くはありませんが衣類や小物が主流なアプリで鮮魚がコンスタントに売れていく様子を見て。旦那さんにこれは今だと思う、ちゃんとしたECサイトで売らせて欲しい!とお願いしました。
私も最初どんぐらい売れるのかとか分からずに、とりあえず出してみたんです。そしたら、めっちゃ買われてるやんって。旦那さんにそんなにできん。止めて!と怒られました(笑)
タイミング悪くそれから台風が4つぐらいきたのかな。台風の前後もやっぱり海が荒れたりとか、天気が悪くて普通に生活してたら風ないなって思うけど、海に出たらすごくあるみたいで。あれはお待たせしすぎて申し訳なかったです。
その気持ちも込めてたくさん、たくさん、って入れてお送りしました。」
最初は智美さんに押される形で始めたお客さんへの直接販売ですが、今ではお客さんと関わりも吉文さんの原動力になっているそう。
吉文さん 「これ、お客さんでこんなの送ってきてくれて。」
見せて下さったのは、大事そうに袋に入ったままのメッセージカード。
智美さん 「クローバーを見つけてくれて。あと本当に美味しかったって、カワハギの絵を。お手紙も入っていて旦那さんがすごい喜びました。
ごちレポなんかもめちゃめちゃ楽しみにしてて、常に見てます。今日来てないかな~って。お互い別で見ていて会った時に、旦那さんに見た?と言われて。見たよと言ったら、あぁしんどいとか言いながらもニコニコしてて。」
吉文さんの表情もどこか微笑んで見えます。
お話しは妻・智美さんに代わります。
智美さん 「ちょっと旦那さんにも失礼なんやけど、私自身漁師さんって、口が悪い、態度が悪い、とか怖いイメージだったんです。けど、旦那さんと付き合い始めたらイメージとのギャップがあるなーと思って。
誕生日に花を贈ってくれたり、ドラマを観て涙を流したり、家族や友達を本当に大事にしていたり…うまく伝えれないだけで本当は優しい人達なんだなと感じました。
漁師さんの本当の姿を見てもらいたいので、Instagramでもお喋りスタイルの動画投稿をメインにしています。私たちの人柄、梱包中の夫婦喧嘩も隠さず載せているのですが思いのほか好評で(笑)
そして、販売を始めてからずっと応援してくれるお客様たちにイベント毎に楽しめるような梱包を心掛けています。」
お2人が今後、やりたいことについて伺いました。
智美さん 「SDGsの『13.気候変動に具体的な対策を』と『14.海の豊かさを守ろう』を体現するような活動をしたいです。
【SDGsとは?】
「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標である。開発途上国の基礎的な目標に加え、先進国や企業にとって取り組むべき課題、気候変動、海洋資源、生物多様性などの国際的な課題について言及されている。
私はアパレルブランドでも仕事をしているのですが、アパレルでの『持続可能な社会』を勉強していくうちに、私が住む今治にも当てはめる事が出来ないか?と考えるようになりました。
今は1度の漁で2割~4割の海に返さなければいけない魚が発生しています。これらは未利用魚・低利用魚といって市場や一般家庭に流通しない魚。海に返した分、売れる魚を求めて、再び漁に出なければいけません。
【未利用魚・低利用魚とは?】
未利用魚…市場に出荷する際に1箱分に満たず、流通から外れた魚。
低利用魚…出荷しても箱代・氷・手数料を取られたらほとんど利益がない魚。一般的に美味しくないと認識されており、値がつかない。
一方で、地元の人や魚に詳しい人には食べられていて、味もとても美味しいんですよ。
今も未利用魚はお客様にお届けさせて頂いていますが、将来的には低利用魚も海に戻すのを辞めてお客様にお届けできれば、魚を海に戻す手間や漁に出るガソリン代の削減をできるのではないかと考えています。
おのずとCO2削減に繋がりますし、市場にのらない魚も実は美味しいんだよ!ということを全国の方に知って頂く機会にもなります。最終的には昔見られた朝市の賑わいをもう1度見られるように。漁師町を活性化していきたいです。」
吉文さん「魚自体が全国的にも結構美味しいところやと思うんで、できるだけみんなに食べて欲しい。色んな種類を食べて欲しいのでそのために頑張ります。」
堅実実直に漁に向き合う吉文さんと、バイタリティ溢れる行動派の智美さん。多角的な発信や伝える工夫が、お2人の人柄をスマホの向こう側へ伝えお客様をファンにしていくのでしょう。
今旬のお魚を聞くと、「鯛」「ウマヅラハギ」「イカ」と教えて下さいました。※2/15現在
お2人の思いも乗せて、箱一杯に詰め込まれた瀬戸内のおいしい海の幸。
愛媛から日本全国のお客様にお届けします。
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EBISU☆FISHERY
出品者さんのページ
Instagram @ebisu_fishery
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訪問レポート |
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vol.1:転機は"色"への着目。ポップに心くすぐる、カラフルじゃがいもで繋がる輪 |
vol.2:河辺に流れる思い。大好きな町を元気にしたい |
vol.3:おいしいを追求する父子の『作品』づくり |
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